【対談コラム④】
「仕掛けの事例」を探すのをやめたら、
売れるプロモーションの構造が見えてきた
これまでの仕掛学対談では、
「情報を届ける」から「行動を生む」へ。
さらに「人を巻き込み、ファンを生む」へ。
売場やプロモーションに隠された、
人を動かす仕掛けについてご紹介してきました。
過去のコラムはコチラ▼
【対談コラム①】「伝える」から「動かす」へ。仕掛学とBRINGが解き明かす、つい買い物をしたくなる“売場の心理”
【対談コラム②】隠されると、見たくなる? 売場で見つけた「○○を教えない」仕掛け
【対談コラム③】売場にUFO襲来⁉「本気で遊ぶ」仕掛けのクオリティ
実際の事例を紐解きながら、
「なぜ人は惹きつけられるのか」「なぜ思わず行動したくなるのか」
その背景にある、人を動かす仕組みを、松村先生と一緒に掘り下げてきました。
そんな中で、
仕掛学との向き合い方に、ある変化が生まれました。
「仕掛けを探さなきゃ」と考えていた時には見えなかったものが、
少し視点を変えることで見えてくるようになった。
今回は、その変化をきっかけに、
世界を動かしたクリエイティブ事例も交えながら、
人の心を動かすアイデアは、どのように生まれるのか、その本質に迫ります。
「仕掛けを探さなきゃ」という呪縛からの解放
宮城
松村先生、この対談連載を始めて数ヶ月、
私の中で「仕掛学」に対する向き合い方がガラッと変わってきた感覚があるんです。
松村教授
ほう、どんな変化ですか?
宮城さんはいつも鋭い着眼点で売場の事例を持ってきてくださいますが。
宮城
実は最初の頃って、
「何か仕掛学の教科書に載っているような、わかりやすい仕掛けの事例を探さなきゃ」と
少し身構えてしまっていたんですよ。
でも、それだと日常の売場を見ていてもなかなか売場やプロモーションの発想だったり、
人を動かす理由と繋がらなくて。
ところがある時、その呪縛を一度捨てて、
単純に「これプロモーションとして純粋に面白いな!」
「なんで自分は今、これに惹かれたんだろう?」という視点で
世の中の企画を見るようにしてみたんです。
そしたら不思議なことに、
後からその構造を「仕掛けの要素」へ綺麗に分解できるようになってきたんですよ。
松村教授
素晴らしい気付きですね!
まさにそれこそが、実務において仕掛学を使いこなせるようになった証拠です。
カンヌライオンズの名作広告も、仕掛学で説明がつく
松村教授
実は仕掛学のロジックって、
世界最高峰の広告クリエイティブが集まる「カンヌライオンズ」など
海外の優れた作品とも、ものすごく親和性が高いんです。
彼らは決して「仕掛学の教科書どおりに作ろう」と思って企画しているわけではありません。
ただ、人間の心理を徹底的に掘り下げて
「どうすれば押し付けずに、自分から面白がって動いてくれるか」を追求している。
その結果、出来上がった名作の構造をひも解くと、
見事に仕掛学のフレームワークにはまっているというケースが山ほどあります。
宮城
世界的な広告クリエイティブの最前線と仕掛学は繋がっているんですね。
具体的にはどんな事例があるんですか?
松村教授
例えば、
カンヌライオンズのクリエイティブエフェクティブネス部門でグランプリを獲得した、
英国の石けんブランドSavlonの「Healthy Hands Chalk Sticks」という
インドでのキャンペーンが好例です。
インドの低所得地域では、手を洗う習慣がないために、
子どもたちが汚れた手のまま食事をして病気にかかり、命を落とす
という深刻な社会問題がありました。
そこで彼らが目をつけたのが、子どもたちが学校で毎日使っている「チョーク」です。
宮城
チョーク、ですか?
松村教授
はい。石けんの成分を配合した特別なチョークを開発して、授業で使ってもらったんです。
当然、授業が終わると子どもたちの手はチョークの粉で真っ白になりますよね。
粉を落とそうと子どもたちが自発的に水で手を洗うと
その粉が泡立って、そのまま手の殺菌消毒ができるという仕組みです。
宮城
……凄い!それ、まさに仕掛学の「目的の二重性」そのものじゃないですか!
松村教授
そのとおりです。
仕掛ける側の目的は「子どもの手を衛生的に保ち、病気を防ぐこと」。
でも、子どもたちの目的はただ「手に付いたチョークの粉を洗い落としたい」だけ。
手を洗うこと自体が子どもにとって不利益にならない(公平性)どころか、
自発的な行動(誘引性)を綺麗にデザインしていますよね。
宮城
寓話『北風と太陽』でいうところの
北風のように「手を洗いなさい」と命令するんじゃなくて、
太陽のように「子どもが自ら洗いたくなる」環境を作っている。
これぞプロモーションの理想形ですね。
人を動かす前に、人を知る
松村教授
もうひとつ、同じ感染症の課題を解決した「Hope Soap(希望の石けん)」という
南アフリカの事例も秀逸です。
こちらは、透明な石けんの真ん中に、小さな「おもちゃ」が埋め込まれているんです。
宮城
ああ!「早くおもちゃを取り出したいから、一生懸命手を洗う」ようになるわけですね!
松村教授
正解です(笑)。子どもたちは「おもちゃが欲しい」という自分の目的のために
懸命に手を洗うんですが、結果として「病気の予防」という別の大きな目的が達成され、
現地の子どもの感染症発症率が大幅に減少したと報告されています。
宮城
どちらの事例も、ちょっとした工夫(アタッチメント)を施すだけで、
人の自発的な行動を引き出し、世界的な社会課題すら解決してしまっている。
仕掛けが持つパワーの凄まじさを感じます。
松村教授
広告クリエイターたちが人間の心理を突き詰めて作った名作には、
必ずこうした美しい仕掛けの骨組みが残るんです。
宮城
なるほど。僕たちが目指すべきなのは、理論をこねくり回すことではなく、
こういった「人間の心理に誠実に向き合った、誰も損をしない面白いアイデア」を
売場に実装していくことなんだと、改めて視界がクリアになりました。!
遊び心がブレイクスルーを生む鍵に
宮城
これまでは他社さんの優れた事例を分解して学んで、仕掛けの本質を深堀りしてきました。
これからは私たちBRINGがクライアントと一緒に企画した実際のプロモーションを、
仕掛学の視点で先生と一緒に振り返るような回もやっていきたいなと思っています!
松村教授
それは最高ですね!
ぜひBRING発の、誰も損をしない『新しい仕掛け』を
世の中にたくさん生み出していきましょう。
「どう伝えるか」ではなく、
「どうすれば人は動きたくなるのか」。
BRINGは、その視点を大切にしながら、
50年にわたり培ってきた販促知見と掛け合わせ、
お客様の行動を生み出す売場づくりをご支援しています。
50年の販促知見と「仕掛学」を融合させた独自のコンサルティングを提供。
・商圏特性に応じた行動デザインの設計
・52週MDに基づいた「今、動かしたくなる」仕掛けの提案
・SNSとの親和性が高い「映える・体験する」売場づくり
ただ並べるだけの売場から、体験が生まれる売場へ。
私たちと一緒に、新しい買い物のカタチを設計しませんか?
少しでも気になった方はコチラからお気軽にご相談ください!
■松村 真宏(大阪大学大学院経済学研究科 教授)
【経歴】
1975年大阪府東大阪市生まれ瓢箪山育ち。1998年大阪大学基礎工学部卒業。2003年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。2004年イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校客員研究員、2012年〜2013年スタンフォード大学客員研究員。人工知能の研究室で博士号を取得した後、紆余曲折の末「仕掛学」を創始し、現在は仕掛学の研究・実装・普及に従事している。
【主な実績】
著書:『仕掛学』(東洋経済新報社、2016)、『実践仕掛学』(東洋経済新報社、2023)、『なぜ人は穴があると覗いてしまうのか』(幻冬舎、2025)、『Shikake: The Japanese Art of Shaping Behavior Through Design』(Liveright Pub Corp、2020)など
論文:Shikakeology: designing triggers for behavior change (AI & Soc 30,2015)、The dynamism of 2channel (AI & Soc 19, 2005)、PAI: Automatic indexing for extracting asserted keywords from a document (NGCO 21, 2003)など
受賞:ベストペーパー賞(日本マーケティング学会、2017)、大阪大学賞(大阪大学、2017)、第6回World OMOSIROI Award(2020)、感謝状(愛知県常滑警察署長、2022年)、高進度賞(公文教育研究会、昭和59年)など
【座右の銘】
世の中ね、仕掛けか死ねかなのよ(回文)(松村真宏)
Better late than never. (Geoffrey Chaucer)
Fail faster, succeed sooner. (David Kelley)
Stop and smell the roses. (The Old Testament)
You play with the cards you're dealt. (Snoopy)
■宮城亮平(株式会社BRING 執行役員)
2006年 新卒で株式会社BRINGへ入社。
「大手流通小売業の52週の売場演出」「店舗活性化」「メーカー各社の販売促進」に携わりながら、2018年12月に立ち上げた日本初のバーチャル接客サービス「バタラク」の事業を推進。
人材不足が問題化している世の中に対して、好循環をもたらす新しい接客手法などの開発を行う。2020年からはリアルとデジタルの融合や様々な新規のビジネス活動のデザイン開発を進行。
現在は「思わずやってしまう」というカラクリに再現性を持たせるため、
大阪大学の仕掛学をはじめとしたアカデミアと協業しながら、店頭での行動変容についての言語化を日々研究。
多様な角度から考察を重ね、店舗のコンディションをあげる次の一手をご提供することを通じて、世の中の悪循環を好循環に変えるべく活動中。
