【対談コラム②】
隠されると、見たくなる?
売場で見つけた「○○を教えない」仕掛け
前回の対談コラムでは、「伝える」から「動かす」へ――。
人の行動を自然に促す「仕掛学」の考え方についてご紹介しました。
▶前回の【対談コラム①】はコチラ
実は、こうした「仕掛け」は、
私たちが普段利用しているスーパーマーケットの売場にも数多く隠れています。
今回取り上げるのは、
関東を中心に展開するスーパーマーケット「ベルク」で見つけた、少し不思議な販促物。
そこには、お客様が思わず足を止めてしまう、巧みな仕掛けが隠されていました。
今回も松村先生との対談をとおして、その秘密に迫ります。
売場で見つけた、○○の書かれていない「宝箱」
宮城
松村教授、本日もよろしくお願いします。
最近、お店の仕掛けを「おもしろプロモーション」という視点で探すのが習慣になってきたんですが、
先日関東のスーパー「ベルク」さんで、思わず唸ってしまう売場を見つけたんですよ。
松村教授
お、どんな売場ですか?
ベルクさんは、かなり尖った企画をされるカルチャーがありますよね。
宮城
そうなんです。
今回見つけたのは飲料コーナーなんですが、棚に遠くからでもよく見える販促物で
「黄金プライス -宝はここ-」という告知ツールがついているんです。
通常、スーパーの販促物といえば「今だけ〇〇円!」と
価格を一番大きくアピールするのがセオリーじゃないですか。
でもその販促物には、どこを見ても肝心の価格が書いていないんですよ。
松村教授
ほう、あえて価格を隠している(笑)。
宮城
はい。気になって「いくらなんだろう?」とわざわざ棚の前まで行って商品を確認してみると、
商品の前のプライスPOPには、そのお得な売価が書いてあったんです。
その瞬間、「あ、これ完全にハマったな」と(笑)。

人を動かす「仕掛学」
なぜ私たちは手を伸ばしてしまうのか?
松村教授
宮城さん、それは見事な「仕掛け」ですね。
仕掛学の観点から見ても、非常に美しい行動のデザインがなされています。
通常の売場は「情報をすべて開示して、納得して買ってもらう」というアプローチですが、
この事例は「あえて情報を隠す(引き算する)」ことで
人間の「気になる、確認したい」という好奇心トリガーを引いているんです。
宮城
確かに、普段なら横目で見るだけで通り過ぎてしまう棚なのに、
わざわざ足を止めて、しかも「商品を手に取る」という行動まで自然と促されました。
商品を手に取ってもらうハードルって、小売においてはかなり高いはずなのに、
それを軽々とクリアさせているんですよね。
松村教授
そうなんです。
仕掛学では「目的の二重性」と言いますが
お店側には「他社に負けない自信のある売価を見てほしい、
商品がある場所まで誘引したい」という目的がある。
一方で、ユーザー側は
「目に入ったものの価格がわからないから知りたい」
という目的で動いている。
この異なる目的で動いている両者の思惑が、売場のデザインひとつで綺麗に一致しているのが秀逸です。
大切なのは「ずるさ」のない誠実なエンタメ感
宮城
もうひとつ、この仕掛けで私が感動したのが
「誰も損をしていない」という点なんです。
世の中のプロモーションには
たまにセット販売でパッと見は安く見えても、計算したらそうでもなかったり
ちょっと騙し打ちのような「ずるさ」を感じるものもありますよね。
でも、この価格隠しにはそのずるさが一切ない。
松村教授
まさにそこが仕掛けの要件として一番重要なポイントです。
仕掛学の根本には「公平性」があります。
もし、ワクワクして商品を手に取ったのに
「実は他店より高かった」となれば、それはただの「騙し」です。
お客様は裏切られたと感じて、二度と買いません。
でもベルクさんの場合は、
「他社に負けない圧倒的な売価」という絶対的な強み(ファクト)があるからこそ、
価格を確認した瞬間に「おお、本当に安い!」という驚きと納得感に繋がっている。
宮城
強みがあるからこそ、それをどう見せるかのアイデアが生きてくるわけですね。
真剣に、誠実にお客様を楽しませようとしている姿勢が伝わってきます。
明日からのビジネスに活かす「仕掛け」のヒント
松村教授
今回の事例から学べるのは、
「伝えたい情報(強み)があるときほど、あえて少し隠してみる」という逆転の発想です。
宮城
私たちのプロモーション企画でも、
ついついパンフレットや売場に情報を盛り込みすぎてしまいがちです。
でも、お客様に動いてもらうためには、あえて「引き算」をして、
お客様自身に「参加(行動)してもらう余白」を作ることが
大切なんだと改めて気づかされました。
こういう、誰も損をせずに、売場に立つだけでちょっと楽しくなるような「仕掛け」を、
これからもたくさん見つけて、私たちの提案にもどんどん活かしていきたいです!
「どう伝えるか」ではなく、
「どうすれば人は動きたくなるのか」。
BRINGは、その視点を大切にしながら、さまざまな売場づくりをご支援しています。
50年の販促知見と「仕掛学」を融合させた独自のコンサルティングを提供。
・商圏特性に応じた行動デザインの設計
・52週MDに基づいた「今、動かしたくなる」仕掛けの提案
・SNSとの親和性が高い「映える・体験する」売場づくり
ただ並べるだけの売場から、体験が生まれる売場へ。
私たちと一緒に、新しい買い物のカタチを設計しませんか?
少しでも気になった方はコチラからお気軽にご相談ください!
■松村 真宏(大阪大学大学院経済学研究科 教授)
【経歴】
1975年大阪府東大阪市生まれ瓢箪山育ち。1998年大阪大学基礎工学部卒業。2003年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。2004年イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校客員研究員、2012年〜2013年スタンフォード大学客員研究員。人工知能の研究室で博士号を取得した後、紆余曲折の末「仕掛学」を創始し、現在は仕掛学の研究・実装・普及に従事している。
【主な実績】
著書:『仕掛学』(東洋経済新報社、2016)、『実践仕掛学』(東洋経済新報社、2023)、『なぜ人は穴があると覗いてしまうのか』(幻冬舎、2025)、『Shikake: The Japanese Art of Shaping Behavior Through Design』(Liveright Pub Corp、2020)など
論文:Shikakeology: designing triggers for behavior change (AI & Soc 30,2015)、The dynamism of 2channel (AI & Soc 19, 2005)、PAI: Automatic indexing for extracting asserted keywords from a document (NGCO 21, 2003)など
受賞:ベストペーパー賞(日本マーケティング学会、2017)、大阪大学賞(大阪大学、2017)、第6回World OMOSIROI Award(2020)、感謝状(愛知県常滑警察署長、2022年)、高進度賞(公文教育研究会、昭和59年)など
【座右の銘】
世の中ね、仕掛けか死ねかなのよ(回文)(松村真宏)
Better late than never. (Geoffrey Chaucer)
Fail faster, succeed sooner. (David Kelley)
Stop and smell the roses. (The Old Testament)
You play with the cards you're dealt. (Snoopy)
■宮城亮平(株式会社BRING 執行役員)
2006年 新卒で株式会社BRINGへ入社。
「大手流通小売業の52週の売場演出」「店舗活性化」「メーカー各社の販売促進」に携わりながら、2018年12月に立ち上げた日本初のバーチャル接客サービス「バタラク」の事業を推進。
人材不足が問題化している世の中に対して、好循環をもたらす新しい接客手法などの開発を行う。2020年からはリアルとデジタルの融合や様々な新規のビジネス活動のデザイン開発を進行。
現在は「思わずやってしまう」というカラクリに再現性を持たせるため、
大阪大学の仕掛学をはじめとしたアカデミアと協業しながら、店頭での行動変容についての言語化を日々研究。
多様な角度から考察を重ね、店舗のコンディションをあげる次の一手をご提供することを通じて、世の中の悪循環を好循環に変えるべく活動中。
