【対談コラム】
「伝える」から「動かす」へ。
仕掛学とBRINGが解き明かす、
つい買い物をしたくなる“売場の心理”
情報が溢れ、スペックや価格の比較だけでは選ばれない時代。
「いかに伝えるか」という従来の販促は限界を迎えています。
そこで今、注目されているのが、大阪大学の松村真宏教授が提唱する「仕掛学」です。
今回、仕掛学の知見を、50年にわたり小売・販促支援を行ってきたBRINGが独自の視点で再構築。
BRING宮城が松村教授との対談を通じて、生活者の「つい」を引き出し、
売場の熱量を高めるための「行動デザイン」の神髄に迫ります。
情報ノイズ時代の、新しい視点
宮城
松村教授、本日はよろしくお願いします。
私たちは半世紀にわたり小売店の売場を見てきましたが、
近年、情報の飽和によって店内においても「お得です」「●●な価値があります」といった
本来届けたいメッセージがお客様に届きにくくなっていると感じています。
松村教授
人間には、他人から指示されると無意識に反発したくなる
心理的リアクタンス」という性質がありますからね。
正論であればあるほど、人は身構えてしまう。
そこで私が提唱しているのが「仕掛学」です。
あえて目的を隠し、好奇心や遊び心を刺激することで、結果的に望ましい行動を誘発する。
この「ついしたくなる」という心の動きこそが、
現代の閉塞感ある売場を打破する鍵になります。
★仕掛学とは?

事例で解く、BRING流「仕掛けの4Sメソッド」
松村教授
「仕掛学」に落とし込んでいくにあたって非常に重要な考え方となる
「FAD要件」という視点があります。
仕掛学では、仕掛けを満たす3つの要件を「FAD要件」として定義しています。
最初のFは、Fairness(公平性)です。
これは、仕掛けによって、誰も不利益を被らないことです。
誰かが損をするようなものは仕掛けとは呼びません。
二番目のAは、Attractiveness(誘引性)です。
これは、行動を「いざなう」性質のことです。
行動変容を強要するものではないことに注意してください。
無理やり行動を変えさせるようなものは仕掛けとは呼びません。
三番目のDは、Duality of purpose(目的の二重性)です。
これは、仕掛ける側の目的と、仕掛けられる側の目的が異なることです。
宮城
教授の理論を現場で即戦力にするため、
弊社では店舗での行動変容に効果を生むために、FAD要件を踏まえた上での
独自の「4Sメソッド」を定義しました。
これを活用した具体的な成功事例をいくつかご紹介します。
教授が過去取り組まれた事例なども含めて、
その理論に当てはめて、構造を言語化してみます。

ケース①:マジックハンドによるチラシ配布
コロナ禍で「対面での受け取り」が敬遠された際の面白い事例です。
ソーシャルディスタンスへの意識が高まる中、単なるビラ配布ではなく、
マジックハンドを使ってチラシを配る試みを行いました。
■ 目的の二重性
①.仕掛けた人の目的
コロナ禍で受け取り率が落ち込んだチラシ配布を改善し、宣伝効果を高めたい。
②.仕掛けられた側の人の目的
マジックハンドで配られているモノが何か気になり確かめたい。
Sight(視覚):
長いマジックハンドを操るユーモラスな姿が遠くからでも目を引く。
Sense(感覚):
適切な距離感が保たれるという「安心感」。
Story(文脈):
「マジックハンド=遊びで使った」という子供時代の記憶が呼び起こされる。
Surprise(意外性):
「なぜマジックハンドで?」という驚きや受け取ってみたいという好奇心が、
チラシへの無関心を上回る。
松村教授
こう読み解いていくと面白いですね。
最終的にこの仕掛けの効果としては、通常の配布に比べて受け取り率が5.5倍に跳ね上がり
驚異的な数字の伸びを見せました。
それは「チラシを配る」という本来の目的(仕掛ける側の目的)と、
「ちょっと面白い体験をする」というお客様の目的(仕掛けられる側の目的)が
それぞれ達成された、まさに「目的の二重性」が機能した結果と言えます。
ケース②:アンケート付き試食施策
単なる試食販売ではなく、「あなたはどっち派?」という問いとともに、
人気投票を同時に行う仕掛けを設置しました。

■ 目的の二重性
①.仕掛けた人の目的
試食販売に対する心理的抵抗を減らし、自然に試食をしてもらいたい。
②.仕掛けられた側の人の目的
新商品を食べてみたい。
返報性(モノやサービスを受け取った際、申し訳なく感じて何かしらでお返しをしようとする)の
手段として、購入以外の選択肢が欲しい。
Sight(視覚):
「あなたはどっち派?」というシンプルな2択のわかりやすく参加しやすいアンケートシステム。
Sense(感覚):
「つまようじ」を刺して投票するというアナログな感触。
Story(文脈):
自分で「こっち派」と宣言した直後なので、行動の一貫性の心理が働き、
その先の試食・購買へとスムーズに繋がる。
両方を食べる比較試食のため、味の体験がふえ、次回への購入機会の拡大につながる。
Surprise(意外性):
アンケートに使っている「つまようじ」は、
試食で使った本来捨てるはずだった「つまようじ」を使うというアイデアになっている。
松村教授
この実験も非常に効果があり、何も設置しない状態での試食率は11%であったのに対して、
投票スタイルを導入したことで20%まで上昇しました 。
宮城
倍ですね。すごい。
試食したら購入しないといけないから…というお客様に対し、
アンケートに答えるという選択肢を用意することで、試食のハードルが下がるんですね。
仕掛けって良い言葉と思っていて、愛があるというか、
仕掛けられる側の人のことを思って「おせっかい」しているニュアンスがあり、
実はその温度感も弊社では大事にしています。
「52週の生活者マインド」と仕掛けの融合
宮城
弊社がもう一つ大切にしているのが、2026年の生活者マインドに合わせたタイミングです。
例えば、節分やクリスマスといった「52週の歳時記」に合わせてこの仕掛けを変化させる。
「仕掛学」という学術的なエビデンスを持ちながら、
我々が持つ現場の「旬」に掛け合わせることで、
単なるアイデアではない、根拠ある販促戦略として提案しています。
松村教授
学問が現場の泥臭い知見と結びつくことで、初めて社会を動かす力になる。
BRINGさんが長年培った「生活者への解像度」があれば、
仕掛けの精度はさらに高まるでしょう。
仕掛学×販促=体験が生まれる売場へ
仕掛けは新しい選択肢を増やすこと。
今回の対談で触れた「マジックハンド」や「投票型アンケート企画」は、実は氷山の一角にすぎません。
なぜあの店では、迷わずカゴに商品を入れたのか?
なぜあの角を、つい曲がってしまったのか?
そういった店頭の隠れた仕掛けに目を向けていくことが、
小売業店舗での行動変容を起こす再現性のある勝ちパターンにつながっていくと思っています。
BRINGは、50年の販促知見と「仕掛学」を融合させた独自のコンサルティングを提供しています。
・商圏特性に応じた行動デザインの設計
・52週MDに基づいた「今、動かしたくなる」仕掛けの提案
・SNSとの親和性が高い「映える・体験する」売場づくり
ただ並べるだけの売場から、体験が生まれる売場へ。
私たちと一緒に、新しい買い物のカタチを設計しませんか?
少しでも気になった方はコチラからお気軽にご相談ください!
■松村 真宏(大阪大学大学院経済学研究科 教授)
【経歴】
1975年大阪府東大阪市生まれ瓢箪山育ち。1998年大阪大学基礎工学部卒業。2003年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。2004年イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校客員研究員、2012年〜2013年スタンフォード大学客員研究員。人工知能の研究室で博士号を取得した後、紆余曲折の末「仕掛学」を創始し、現在は仕掛学の研究・実装・普及に従事している。
【主な実績】
著書:『仕掛学』(東洋経済新報社、2016)、『実践仕掛学』(東洋経済新報社、2023)、『なぜ人は穴があると覗いてしまうのか』(幻冬舎、2025)、『Shikake: The Japanese Art of Shaping Behavior Through Design』(Liveright Pub Corp、2020)など
論文:Shikakeology: designing triggers for behavior change (AI & Soc 30,2015)、The dynamism of 2channel (AI & Soc 19, 2005)、PAI: Automatic indexing for extracting asserted keywords from a document (NGCO 21, 2003)など
受賞:ベストペーパー賞(日本マーケティング学会、2017)、大阪大学賞(大阪大学、2017)、第6回World OMOSIROI Award(2020)、感謝状(愛知県常滑警察署長、2022年)、高進度賞(公文教育研究会、昭和59年)など
【座右の銘】
世の中ね、仕掛けか死ねかなのよ(回文)(松村真宏)
Better late than never. (Geoffrey Chaucer)
Fail faster, succeed sooner. (David Kelley)
Stop and smell the roses. (The Old Testament)
You play with the cards you're dealt. (Snoopy)
■宮城亮平(株式会社BRING 執行役員)
2006年 新卒で株式会社BRINGへ入社。
「大手流通小売業の52週の売場演出」「店舗活性化」「メーカー各社の販売促進」に携わりながら、2018年12月に立ち上げた日本初のバーチャル接客サービス「バタラク」の事業を推進。
人材不足が問題化している世の中に対して、好循環をもたらす新しい接客手法などの開発を行う。2020年からはリアルとデジタルの融合や様々な新規のビジネス活動のデザイン開発を進行。
現在は「思わずやってしまう」というカラクリに再現性を持たせるため、
大阪大学の仕掛学をはじめとしたアカデミアと協業しながら、店頭での行動変容についての言語化を日々研究。
多様な角度から考察を重ね、店舗のコンディションをあげる次の一手をご提供することを通じて、世の中の悪循環を好循環に変えるべく活動中。
